「ソルダーレジスト事件」判決例と機械系分野の除くクレーム(その1)
拒絶理由通知に対して「除くクレーム」とする補正は、化学系分野の発明では馴染みのあるところですが、機会系分野の発明では、ほとんど試みられていないようです。
しかし、「ソルダーレジスト事件」判決例(平18(行ケ)第10563号/知財高裁大合議判決)以降、機会系分野の弁理士で興味をもたれる方も出始めたようです(http://chizai.no-blog.jp/nandemokandemo/2011/06/post_5231.html)。
少し前になりますが、機会系分野の関係者が「除くクレーム」をどういう感覚で捉えているかを垣間見ることができる判決例があったので、紹介しようと思い、「ソルダーレジスト事件」判決例を見返したところ、この判決例が、「除くクレーム」だけでなく、
・登録商標で発明を特定すること、
・「除くクレーム」で除かれた後の準公知先願(拡大先願)に開示された発明と出願発明の同一性をどのように判断するかということ、
等についても、参考になる判示がなされていることが、遅まきながらわかりました。
そこで、今回は、おさらいを兼ねて「ソルダーレジスト事件」判決例を、上記の話題の部分に焦点を絞って整理してみました。
なお、判決例の引用部分は、筆者が適宜省略、改行及び下線付設をしています。
Ⅰ.「ソルダーレジスト事件」判決例(平18(行ケ)第10563号)の概要
A.経緯
(1)原告は、被告の有する特許第2133267号(以下「本件特許」)に係る特許明細書(以下「本件明細書」)における特許請求の範囲第1項及び第22項の発明について、無効審判請求をした。
(2)特許庁は、本件特許に対して無効審決をなした。
(3)被告は、無効審決取消訴訟を提起し、さらに、訂正審判請求をした。
(4)知財高裁は、無効審決の取消決定をした。
(5)特許庁は、特許法134条の3第5項により訂正請求とみなされた被告の訂正請求(以下「本件訂正」)を認めた上,無効審判について請求不成立審決(以下「審決」という。)をした。
(6)原告は、審決取消訴訟(以下、本件訴訟)を提起した。
B.本件発明1(本件訂正後の本件特許請求項1に係る発明)
本件特許の審理対象は訂正後の請求項1と請求項21でしたが、請求項21は請求項1に係る感光性熱硬化性樹脂組成物の製造方法に相当し、発明特定事項の構成がほとんど同じなので、以下では、請求項1に関する部分のみ引用します。請求項1は、以下を内容とします。
「(A)1分子中に少なくとも2個のエチレン性不飽和結合を有し,
下記(a),(b),(c)のうちの1または2以上の群から選ばれる1種または2種以上の感光性プレポリマー,・・・
(B)光重合開始剤,
(C)希釈剤としての光重合性ビニル系モノマー及び/又は有機溶剤,及び
(D)・・・固型状もしくは半固型状のエポキシ化合物,を含有してなる感光性熱硬化性樹脂組成物。
ただし,
(A)「クレゾールノボラック系エポキシ樹脂及びアクリル酸を反応させて得られたエポキシアクリレートに無水フタル酸を反応させて得た反応生成物」と,
(B)光重合開始剤に対応する「2-メチルアントラキノン」及び「ジメチルベンジルケタール」と,
(C)「ペンタエリスリトールテトラアクリレート」及び「セロソルブアセテート」と,
(D)「1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有するエポキシ化合物」である多官能エポキシ樹脂(TEPIC:日産化学(株)製,登録商標)とを含有してなる感光性熱硬化性樹脂組成物を除く。」
C.知財高裁の取消理由1及び2に対する判断
以下、知財高裁の判示を引用しながら整理します。
1.本件訂正の適否についての判断の誤り(取消理由1)について
(1)原告の主張
(1-1) 「除くクレーム」について
「本件・・・訂正は,いわゆる「除くクレーム」による訂正であるところ,このような訂正は・・・平成6年改正前・・・の特許法134条2項ただし書にいう「願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内」における訂正ということはできない」
(1-2) 登録商標による発明の特定について
「本件・・・訂正後の特許請求の範囲の記載は,登録商標「TEPIC」の記載を含むものであるところ,登録商標の記載によって本件・・・訂正の内容を技術的に特定することはできないから,本件・・・訂正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるということはできない」
(1-3) 発明特定事項の限定的減縮について
「本件・・・訂正は,本件訂正前の・・・発明におけるごく一部の組合せを除外するのみであるから,本件訂正前の・・・発明と本件・・・発明は実質的に同一であり,特許請求の範囲を「減縮」するものということはできない」
(2)「除くクレーム」の意義について
(2-1) 上記規定の沿革及び趣旨並びに解釈
知財高裁は、平成6年改正前の特許法17条2項は、条約との整合性を考慮して改正されている旨を判示し、平成6年改正前の特許法17条2項にいう「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」の解釈の一般論を述べています。
① 「平成6年改正前の特許法17条2項は,
「前項本文の規定により明細書又は図面について補正をするときは,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならない。」と規定しているところ,
同規定は,平成5年法律第26号による改正において,平成11年法律第160号による改正前の特許協力条約に基づく国際出願等に関する法律11条の
「国際予備審査の請求をした出願人は,・・・当該請求に係る国際出願の出願時における明細書,請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において,明細書,請求の範囲又は図面について補正をすることができる。」との文言を参考として規定されたものであり,さらに,上記法律11条は特許協力条約34条(2)(b)の
「出願人は,国際予備審査報告が作成される前に,所定の方法で及び所定の期間内に,請求の範囲,明細書及び図面について補正をする権利を有する。この補正は,出願時における国際出願の開示の範囲を超えてしてはならない。」との規定を受けたものである。」
② 「同条項は,出願人のために出願についての補正を許容する一方,出願時に開示された範囲を超える補正を許さないとすることにより,第三者との利害の調整を図る趣旨の規定であると考えられる。
したがって,平成6年改正前の特許法17条2項も,その趣旨において同様の規定であると理解することができる・・・。」
③ 「そして,平成6年改正前の特許法134条2項は,第三者に不測の損害を与えない範囲において,特許権者に明細書又は図面を訂正する機会を与えることにより,
発明の保護を図る主要国の制度との調和を図りつつ,
無効審判の審理と同時に訂正についても審理を行うことができるようにして審理遅延を回避するとともに,ただし書において,
補正と同様に,訂正も「願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」しなければならないことを定めたほか,
訂正はいったん特許が付与された後に特許が無効となることを回避するために行われることから,このような目的を達するために最小限の範囲と考えられる
「特許請求の範囲の減縮」,「誤記の訂正」又は「明りようでない記載の釈明」を目的とするものである場合に限って認められるとしたものである・・・。」
④ 「以上によると,平成6年改正前の特許法は,補正について
「願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」しなければならないと定めることにより,
出願当初から発明の開示が十分に行われるようにして,迅速な権利付与を担保し,
発明の開示が不十分にしかされていない出願と出願当初から発明の開示が十分にされている出願との間の取扱いの公平性を確保するととともに,
出願時に開示された発明の範囲を前提として行動した第三者が不測の不利益を被ることのないようにし,さらに,
特許権付与後の段階である訂正の場面においても一貫して同様の要件を定めることによって,出願当初における発明の開示が十分に行われることを担保して,
先願主義の原則を実質的に確保しようとしたものであると理解することができる・・・。」
⑤ 「このような特許法の趣旨を踏まえると,平成6年改正前の特許法17条2項にいう「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」との文言については,次のように解するべきである。すなわち,・・・
「明細書又は図面に記載した事項」とは,
当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,補正が,このようにして導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,
当該補正は,「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができ・・・
訂正が,当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,
当該訂正は,「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができる。
⑥ 「特許法29条の2・・・に該当することを理由として,・・・特許が無効とされることを回避するために,無効審判の被請求人が,特許請求の範囲の記載について,
「ただし,…を除く。」などの消極的表現(いわゆる「除くクレーム」)によって・・・先願発明と同一である部分を除外する訂正を請求する場合がある。このような場合,
特許権者は,特許出願時において先願発明の存在を認識していないから,
当該特許出願に係る明細書又は図面には先願発明についての具体的な記載が存在しないのが通常であるが,
明細書又は図面に具体的に記載されていない事項を訂正事項とする訂正についても,
平成6年改正前の特許法134条2項ただし書が適用され・・・,
明細書又は図面の記載によって開示された技術的事項に対し,新たな技術的事項を導入しないものであると認められる限り,
「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」する訂正であるというべきである。」
(2-2) 本件訂正について
① 「本件明細書・・・の記載・・・及び本件訂正前の特許請求の範囲第1項・・・の記載によると,
本件訂正前発明1・・・は,
成分(A)~(D)及び同(A)~(E)のうち,成分(D)として,
使用する希釈剤に難溶性で微粒状のエポキシ樹脂を熱硬化性成分として用いたことを最大の特徴とし,
このようなエポキシ樹脂の粒子を感光性プレポリマーが包み込む状態となるため,
感光性プレポリマーの溶解性を低下させず,
エポキシ樹脂と硬化剤との反応性も低いので現像性を低下させず,
露光部が現像液に侵されにくくなるとともに組成物の保存寿命も長くなる
という効果を奏する発明であると認められ・・・る。」
② 「また,同明細書の記載によると,
本件訂正前発明1・・・の成分(A)~(D)・・・のうち,
成分(A)は,・・・感光性プレポリマーであり,かつ,その例として挙げられる物質又は各物質の例として挙げられる製品は多岐にわたることが認められるほか,
成分(B)の光重合開始剤,
成分(C)の希釈剤としての光重合性ビニル系モノマー及び/又は有機溶剤,
成分(D)の・・・微粒状エポキシ化合物及び・・・いずれについても単独又は2種以上の組合せ又は混合物を用いることができるとされていることが認められる。」
③ 「他方,先願明細書・・・の実施例2には次の記載・・・の要素が,・・・本件訂正前の・・・発明の各成分に相当することについては,当事者間に争いがなく,
・・・本件訂正前発明1の感光性熱硬化性樹脂組成物・・・が,・・・引用発明(先願明細書の実施例2に記載された組成物・・・の発明)と同一であることについても,当事者間に争いがない。」
④ 「・・・本件訂正前発明1・・・の各成分に多種の物質又は製品が該当し得ることが認められる。そうすると,・・・本件・・・訂正は,
本件訂正前の・・・発明から先願発明と同一部分を除外するために,
除外の対象となる部分である引用発明の内容を,
本件訂正前発明1及び2の成分(A)~(D)・・・ごとに分説し,
各成分に該当し得る物質又は製品の一部を,
同実施例2の特定の物質又は製品の記載を引用しながら特定し,
消極的表現(いわゆる「除くクレーム」)によって除外するものであるということができる。」
(2-3) 本件へのあてはめ
「・・・訂正後の発明についても,成分(A)~(D)・・・の組合せのうち,
引用発明の内容となっている特定の組合せを除いたすべての組合せに係る構成において,
・・・感光性プレポリマーの溶解性を低下させず,
エポキシ樹脂と硬化剤との反応性も低いので現像性を低下させず,
露光部も現像液に侵されにくくなるとともに組成物の保存寿命も長くなる
という効果を奏するものと認められ,
引用発明の内容となっている特定の組合せを除外することによって,
本件明細書に記載された本件訂正前の・・・発明に関する技術的事項に何らかの変更を生じさせているものとはいえないから,
本件・・・訂正が本件明細書に開示された技術的事項に新たな技術的事項を付加したものでないことは明らかであり,
本件・・・訂正は,当業者によって,
本件明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,
新たな技術的事項を導入しないものであることが明らかであるということができる。
したがって,本件・・・訂正は,平成6年改正前の特許法134条2項ただし書にいう「願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものであると認められる。」
(2-4) 審査基準について
① 「原告は,・・・仮に審査基準が,「除くクレーム」について,
特許法の例外を定めたものであるとすると,例外については厳格に運用される必要があるところ,審決は「除くクレーム」が例外として許容されるための要件を認定していない旨主張する。」
② 「審査基準の・・・記載は,「除くクレーム」とする補正について,
「例外的に」明細書等に記載した事項の範囲内においてする補正と取り扱うことができる場合について説明されたものであるが,・・・
「除くクレーム」とする補正が本来認められないものであることを前提とするこのような考え方は適切ではない。
すなわち,「除くクレーム」とする補正のように補正事項が消極的な記載となっている場合においても,
補正事項が明細書等に記載された事項であるときは,積極的な記載を補正事項とする場合と同様に,特段の事情のない限り,新たな技術的事項を導入するものではないということができるが,逆に,
補正事項自体が明細書等に記載されていないからといって,当該補正によって新たな技術的事項が導入されることになるという性質のものではない。
したがって,「除くクレーム」とする補正についても,当該補正が明細書等に「記載した事項の範囲内において」するものということができるかどうかについては,
最終的に,・・・明細書等に記載された技術的事項との関係において,
補正が新たな技術的事項を導入しないものであるかどうかを基準として判断すべきことになるのであり,「例外的」な取扱いを想定する余地はないから,
審査基準における「『除くクレーム』とする補正」に関する記載は,
上記の限度において特許法の解釈に適合しないものであり,
これと同趣旨を述べる原告の主張は相当である。
もっとも,審査基準は,特許出願が特許法の規定する特許要件に適合しているか否かの特許庁の判断の公平性,合理性を担保するのに資する目的で作成された判断基準であり,審査基準において特許法自体の例外を定める趣旨でないことは明らかであるから,
原告の主張のうち,審査基準の上記記載が特許法の例外を明示的に定める趣旨であるとの理解を前提とする部分は,そもそも相当ではない。」
③ 「また,上記「説明」の「注1」において「・・・先行技術と技術的思想としては顕著に異なり本来進歩性を有する発明であるが,たまたま先行技術と重複するような場合」とされているのは,
「除くクレーム」とすることにより「特許を受けることができる場合」であり,
「除くクレーム」とする補正が認められるための要件について記載されたものではないから,原告の主張のうち,審査基準の上記記載が,「除くクレーム」とする補正が例外として認められるための要件であるとの理解を前提とする部分もまた相当ではない。」
(3)登録商標による発明の特定の明確性について
(3-1) 「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正
「平成6年改正前の特許法134条2項ただし書は,訂正は「特許請求の範囲の減縮」,「誤記の訂正」又は「明りようでない記載の釈明」を目的とする場合に限って許容される旨を定めているところ,
訂正が「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものということができるためには,
訂正前後の特許請求の範囲の広狭を論じる前提として,
訂正前後の特許請求の範囲の記載がそれぞれ技術的に明確であることが必要であるということができる。」
(3-2) 発明が登録商標で特定される場合の明確性
① 「本件訂正後の特許請求の範囲の記載には「TEPIC」という登録商標が使用されていることから,本件訂正後の特許請求の範囲の記載によって特定される本件・・・発明の内容が技術的に明確であるということができるかどうかが問題となる。」
② 「本件・・・訂正には,
「(D)『1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有するエポキシ化合物』である多官能エポキシ樹脂(TEPIC:日産化学(株)製,登録商標)」との記載部分が含まれるが,
・・・本件・・・訂正は,先願発明と同一であるとして特許が無効とされることを回避するために,先願発明と同一の部分を除外することを内容とする訂正であるから,
本件・・・訂正における「TEPIC」は,先願明細書の実施例2に記載された「TEPIC」を指すものであると認められる。」
③ 「そうすると,本件・・・訂正における「TEPIC」は,
先願明細書に基づく特許出願時において「TEPIC」の登録商標によって特定されるすべての製品を含むものであるということができるから,その限度において,
「TEPIC」との登録商標によって特定された物が技術的に明確でないということはできない。
④ 「なお,一般に,登録商標による物の特定が必ずしも技術的に明確であるということはできず,本件・・・訂正における「TEPIC」が,具体的にどの「TEPIC」を指すものであるかについても,本件訂正後の本件特許に係る明細書の記載のみから明らかであるということはできないところ,
上記明細書の記載に接した第三者が特許請求の範囲に記載された発明の内容を理解するためには,本件・・・訂正に係る「TEPIC」が先願明細書の実施例2に記載された「TEPIC」であることが,明細書中に明示されることが本来望ましい。
本件においてこのような明示を行うためには,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を訂正して,先願明細書の実施例2に記載された発明を除外するために特許請求の範囲の記載が訂正された旨を明示することが必要となる。
そして,このような訂正は,特許請求の範囲の記載の訂正に伴って,発明の詳細な説明の記載について,明りょうでない記載の釈明を目的として行うものであるということができるところ,・・・新たな技術的事項を導入しないものであると認められ,
実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもないということができる。」
しかしながら,前記の審査基準に依拠する特許庁の従来からの実務において,このような訂正が「明細書又は図面に記載された事項の範囲内において」するものではないとされていたことから,特許権者である被告はあえてこのような訂正を請求せず,特許請求の範囲の
記載の訂正において「TEPIC」とのみ記載して除外部分を特定したものと考えられる。
・・・上記のとおり本来望ましい方法によらなかったことを理由として,本件訂正が不適法であるとまでいうことはできない。」
⑤ 「平成2年通商産業省令第41号による改正前の特許法施行規則24条は,明細書の様式に関し,「願書に添附すべき明細書は,様式第十六により作成しなければならない。」と定めており,様式16は,明細書の記載の様式について,
「登録商標は,当該登録商標を使用しなければ当該物を表示することができない場合に限り使用し,この場合は,登録商標である旨を記載する。」としているところ,
その趣旨は,商標登録制度においては,
登録商標とこれによって特定される物の性状や組成の対応関係が担保されておらず,
登録商標による物の特定は必ずしも一義的に明確であるとはいえないことから,
一般に,明細書の記載における登録商標の使用について,極めて例外的な場合に限定して許容されるものと位置づけることにあるということができる。」
⑥ 「本件・・・訂正の内容は,・・・本件訂正前の・・・発明から引用発明と同一の部分を除外するために,除外の対象となる部分である引用発明の内容を,本件訂正前発明1・・・の成分であって,これらのいずれについても多種の物質又は製品が該当し得るところの成分(A)~(D)・・・ごとに分説し,先願明細書の実施例2の特定の物質又は製品の記載を引用しながら,消極的な表現形式(いわゆる「除くクレーム」の形式)によって特定しているものであり,引用発明と同一の部分を過不足なく除外するためには,このような方法によるほかないと考えられることから,本件・・・訂正において,
引用発明を特定する要素となっている「TEPIC」との商標の記載を使用して除外部分を表示したことが,上記規則24条に反するものということはできない。」
⑦ 「以上によると,本件・・・訂正において登録商標が使用されたことによって,その内容が不明確になったということはできない。
(4)結論
「 上記・・・のとおり,本件・・・訂正は,平成6年改正前の特許法134条2項ただし書にいう「願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものであり,
かつ,「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであると認められるから,
本件訂正を認めた審決の判断に誤りはなく,取消事由1は理由がない。
したがって,本件発明の要旨は,本件・・・発明として特定されるとおりのものであると認められる。」
2.本件・・・発明と引用発明の同一性についての判断の誤り(取消事由2)について
(1)原告の主張
「本件・・・発明と引用発明は技術分野,用途,作用効果等を共通にし,その技術的思想は同一である。そして,
本件・・・発明は,本件・・・訂正により除外された組合せ以外の成分(A)~(D)・・・からなる発明であり,成分(A)~(C)・・・はいずれも周知の成分であるほか,成分(D)については,「TEPIC」と同一の化学的構造を有するが商標名だけが異なる多官能エポキシ樹脂・・・が含まれるのであり,本件・・・発明は依然として引用発明と実質同一であるというべきである・・・。」
(2)先願明細書に記載された発明と本件発明の対比
「先願明細書に記載された発明と本件・・・発明は,いずれもいわゆるソルダーレジストとして用いられる樹脂組成物である点で共通し,活用される技術分野についても同様であるということができる。
他方,先願明細書に記載された発明が,従来現像液として使用されてきた有機溶剤の問題性を踏まえ,アルカリ水で現像可能な感光性皮膜組成物の提供を目的とするのに対し,
本件・・・発明は,現像液を有機溶剤,アルカリ水溶液のいずれとする場合においても,・・・現像性及び感度が共に優れ,かつ,露光部の現像液に対する耐性があり,寿命の長い感光性熱硬化性樹脂組成物を提供することを目的としており,・・・希釈剤に難溶性で微粒状のものを用いたことを特徴とするものであるといえる。そして,・・・
少なくとも,先願明細書には「難溶性」という要素を発明の構成に必要なものとして位置づける趣旨の記載は認められない。
そうすると,先願明細書に記載された発明と本件・・・発明は,
課題,これを解決する手段である発明の構成及び作用において異なるものであるといわざるを得ないから,両発明は技術的思想において互いに異なるものであるというべきである。」
(3)結論
「上記・・・のとおり,・・・先願明細書の実施例2以外の記載において本件・・・発明と実質同一の発明が開示されているということはできないから,本件・・・発明が同記載の発明と実質同一であるということはできない。
したがって,本件・・・発明に係る特許が,平成6年改正前の特許法29条の2の規定に違反してされたものということはできないから,審決の判断に誤りはなく,取消事由2は理由がない。」
(続く)
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