えいがたびものがたり<1>・初夏のイギリス紀行
文・写真: Mr. C.T
イギリス <2013年5月30日~6月8日>
初めまして!私は4年前に55歳で会社をリタイアした、自由気ままな独身男です。
映画と山と温泉が大好きで、テレビドラマ、シアター、歴史、宇宙、美術などにも関心があります。
映画は、劇場で年間約150本観ています。
生来放浪好きで、退職してからは、日本全国、世界各地へあちこちと旅をしてきました。
好きな映画にちなんだ旅先に行くと、自然にテンションが上がります。
ここ数年にわたって旅してきた記憶も想い出も、最近、年のせいかどんどん薄れ始めてきました。
その忘却対応策として、文章で記録を残してゆくことにしました。
文章を書くのは苦行ですが、老化防止の試練だと思ってなんとか文字を積み重ねております。
このたび、柴大介氏との旧いご縁で、このブログに参加させていただくことになりました。
はたして私のような部外者がお邪魔してよろしいのか、はなはだ不安ですが、よろしくお願いします。
この「えいがたびものがたり」は、30年近く毎月連続して発行されている「KCC通信」という同人誌に数年前から掲載中のエッセイからの転載です。
KCCは<京平シネマクラブ>という映画サークルの略称名です。
時を経て、現時点では文章中の年月が不明瞭な箇所があり、当時の文章に若干の修正を加えて、わかりやすくアレンジしています。
エッセイに関連した私の撮影写真が本サイトのPhotoに収められています。よろしければ、そちらも訪れてみてください。
2013年、5月の末から6月の初めにかけて9日間、Bさん(元KCCメンバーで私が退職した会社の元大先輩)とイギリスを旅行してきた。
この円安のご時世で、燃油サーチャージ込み約18万円というマル得ツアーである。その格安の要因は、上海経由で中国系の航空会社を利用していること。ネットへの書き込み予備知識などで大いに不安が募ったが、背に腹は代えられない。
が、機内設備も、機内食も、サービスも思っていたよりは、まあまあだった。LCC(格安航空会社)に毛の生えた程度のサービスしか期待してなかったのが、功を奏したようだ。だが、帰りの飛行機では、乗ったばかりなのにビール、ワインはもう無いと平然と答えられ、ガッカリしてしまった。
お天気は、到着したその日から最終日まで快晴の青空続きであった。この時期、イギリスでこんなにいい天気が続くのは奇跡に近いらしい。「君たちはラッキー」だと現地の人に何度も言われた。実は、私たちが到着する前日までイギリスは寒さと雨で冬のような毎日が延々と続いていたらしい。添乗員さんから事前のアドバイス(今年のヨーローパは異常気象でまだ冬のように寒いから、暖房着を絶対に忘れないように)が無駄なおせっかいに終わってしまったほどである。
いかにもイギリスらしいどんよりとした重たい曇り空や霧や雨は、一度も体験できなかったという嬉しい?誤算である。真っ白に伸びる鮮明な飛行機雲が行く筋も交差する、真っ青な空を何度見上げたたことか。
しかし、帰路の乗り換え地の上海で、私たちは痛いしっぺ返しを受けることになった。
暴風雨の中、機内に乗り込んで延々2時間待たされ、機内食も出たあげく、結局欠航決定となり、真夜中のホテル泊まりとなってしまったのである。ところで、この台風並みの嵐の中、1機だけ離陸した飛行機があった。広島行きの飛行機である。乗客の8割が中国人で、どうしても飛行機を飛ばせと騒ぎ出したため、仕方なく飛行機を出したらしい。こんなことってあり?!
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日本との時差はサマータイムのため8時間(通常は9時間)。緯度は、カムチャッカ半島と同じくらい。夜10時過ぎにになってようやく薄暗くなりはじめる。通常タイムなら、深夜0時にならないと暗くならないのである。時間を得した気分になるけれど、その分、イギリスの夜を楽しむことはできなかった。時間感覚も麻痺したみたいになり、時計を見てハッとすることがしばしばあった。
物価は想像していた以上に高かった。ドイツやスイスより高く、日本の約1.5倍位の感覚だった。あっという間にポンドがなくなり、何度も両替しなければならなかった。
問題の、あの「世界一まずい」という噂のイギリス料理、果たしてお味はどんなものなのか。ドイツほど塩辛くはないけど、すべてが大味で、美味しいという料理に遭遇することはなかった。
朝食は、ケチャップの煮豆、ベーコン、フランクフルト、スクランブルエッグ、マッシュルーム、ポテトフライ。毎日同じメニューが続く。イギリス人は野菜をほとんど食べないのではないか。寒くて土地がやせているため、野菜があまりできないらしい。名物は、国民食と言える「フィッシュ&チップス」(鱈のフライとフレンチポテト)のみで、メニュー内容が乏しすぎる。本場の味を楽しみにしていた<フィッシュ&チップス>は、鱈のフライの衣がベトベトしていて、日本のフライのようにカラッとした歯触りがなかった。そもそもイギリス人は、食事に関心が少なく、調理の楽しみを知らないのではないかと思えてくる。「イギリスの食事は世界一まずい」という通念は、イギリス人自体が、自嘲気味に認めているのだから、ほぼ事実だったと言っていいでしょう。
ただし、<アフターヌーン・ティーランチ>で食べた熱々のスコーンの味は信じられないほど美味しかった。生クリームとラズベリージャムのトッピングが絶品であった。この味は、一生忘れられないと思う。
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ロンドンの市内観光の後、翌日は一気に北上して、イギリス人の憧れの保養地、湖水地方に行き、定番のウィンダミア湖のクルーズを楽しんだ。
日本でよく見られる山の中の平凡な景色であるが、平地と丘陵ばかりのイギリスでは山そのものが珍しいらしく、大勢の観光客が押し寄せていた。一番高い山でも1,300メートル級しかないのだから、山の風景はイギリス人にとって希少価値があるのだろう。
ブロンテ姉妹が生まれ育ったハワ―スは、小さくて素敵な村だった。
荒涼としたヒ―スの原野が広がっているイメージだったが、実際にはのどかで美しい羊の牧場が、<囲い込み運動>でできた粗末な石垣に囲まれて、どこまでも続いていた。イギリスの片田舎の風景はため息がでるほど素晴らしい。この風景をボーッと眺めているだけでもイギリスに来る価値はあると思う。バスの車窓を流れる牧場、田園風景に夢中になりすぎて、私の写真の撮影枚数は軽く2000枚を超えてしまった。
ブロンテ姉妹が住んでいた家や父が牧師をしていた教会も見た。部屋の間取りはとても狭かった。質素で、堅実な生活ぶりがうかがえた。
リヴァプールに戻ってからは、中世の城壁の街チェルシーを訪れた。ちょうど巨大な人形がパレードする地元のお祭りが開催されており、ラッキーだった。
人気のコッツウォルズやシェークスピア生誕の地ストラットフォード・アポン・エイボンに立ち寄り、運河付き水道橋、アイアンブリッジ、バース、ストーンヘンジなどの世界遺産も巡った。
イギリスで一番良かった街はと聞かれたら、私はバースと即答するだろう。
ローマ時代の浴場遺跡も素晴らしいが、ジョージ様式の円柱が特色のクラシカルなアパート群の通りと街並みの景観がワンダフル!街全体に優雅な落ち着きが感じられた。こんな街に住んでみたいと思った。
産業革命発祥地の大都市郊外で延々と続く、煉瓦積みの長屋住宅も見ものだった。やんわりとデザインが統制されていて、何本もの各部屋暖房用煙突がクール!生活臭もほのかに漂って、まさにケン・ローチの労働者階級の世界ムンムンであった。
今回の旅で良かったのは、村の小さな教会をたくさん訪れたこと。大都市の巨大な教会には圧倒されるけど、あまりにも壮麗で虚飾に満ちた空間に権威の押し付けを感じてしまい、どうしてもシニカルな気分に陥ってしまう。
でも、村人が通っている教会には、人々の素朴な信仰心やぬくもりが感じられ、長椅子に座っているといつの間にか敬虔な気持ちが湧き上がって来て、なぜ人間が信仰心を必要とするのかわかってくる。西洋映画で当たり前のように登場する教会でのお祈りシーンの日常感を、なんとなく実感できた気がした。
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今回このツアーを選んだポイントは安さが最大の魅力ではあったが、その他にも2つの理由が挙げられる。リヴァプールでビートルズ関連の場所を案内してくれることと、ロンドンでの自由時間がまる2日間あるということであった。
イギリスに行くなら絶対ビートルズゆかりの場所に行きたいという思いは、いつの頃からか心に宿っていた。
リヴァプールでは、日曜の朝ということで、マシューストリートを私たちのツアーだけで独占したかたちになり、写真を好き放題に撮りまくった。やはりデビュー当時出演していた「キャヴァーン・クラブ」跡地の前では感慨深いものがあった。港湾地区のアルバート・ドック(世界遺産)内ある「ビートルズ・ストーリー」という博物館にも行った。当時彼らが使用していた楽器なども展示されており、色々な発見があった。
ロンドンでは、フリータイムを利用してアビ―ロードに行き、横断歩道の上で念願の記念写真を撮ることができた。ロンドン市内の中心街リージェント・ストリート付近では、3回ライブを行った「ロンドン・パラディウム・シアター」を見て、サヴィル・ロウ通り(日本語の背広の語源となった仕立て屋通り)では、アップル・コープス本社があったビルディングを探して歩いた。このビルの屋上で最後のライブ(「ゲットバック」の演奏)が行なわれたのだ。何の変哲もない建物だったけど、ドアの周りは落書きだらけだった。
ロンドン市内には、実質2日半滞在できたので、主な観光地はほとんど行くことができた。バッキンガム宮殿の衛兵行進は30分以上待って見た。観光客でごった返していた。添乗員さんから、観光客のふりをしたスリのメッカだから気をつけるように厳重に注意された。リュックは、そっとファスナーを開けられたり、カッタ―ナイフで切られたりして財布が抜き取られたりと、もっとも狙われやすいバッグとのこと。私は、リュックを前に回して、しっかりと腕に抱えて、華やかな衛兵行進を見物した。
大英博物館やビクトリア&アルバート博物館にも入った。
リージェンツ公園では、まだ見れないだろうとあきらめていたバラの花が見れて嬉しかった。
夕方、タワーブリッジの写真を撮っていたら、橋げたが開いてきたので、大興奮!なんと運のいいこと!
ウェストミンスター寺院、ロンドン塔は、大枚(3,000円以上)を払って入場見学しただけの価値はあった。石造りの薄暗くて巨大な空間に、圧倒された。映画(「冬のライオン」「1,000日のアン」等)やシェークスピアの舞台でおなじみのイギリス王室物語のおぞましい空気感が、ビンビン伝わってきた。知れば知るほど、イギリスの歴史は奥が深くて興味深い。
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そして最後に……実は、私には秘かな楽しみがあった。それは映画「フォロー・ミー」で登場した場所に行ってみること。ミア・ファーローとトポルが言葉を交わすことなく濃密で楽しいひとときを過ごした場所を体感してみたいと思った。時間をやり繰りして、なんとか3か所に行くことができた。
1番目は、ウェストミンスター乗り場からテムズ川クルーズのボートに乗ること。最初はミア・ファーローとトポルが、ラストシーンでは彼女と旦那が舟に乗り込む場所である。風が心地よく天気も快晴で、ロンドンの観光名所が両岸に展開してゆき、あっという間の30分であった。
2番目はハイドパーク内のピーターパンの彫像を見ること。
そして3番目は、「ナショナル・ギャラリー」での美術鑑賞。このシーンのミア・ファーローとトポルは実にイキイキ、楽しそうだった。時間がなかったので、私は、ボッチチェリから印象派の絵画まで駆け足で見まくった。美術館を出ようとして、ハッと気がついた。ショルダーバックのファスナーが開いている!幸い大事なものは、別の場所に保管して身につけていたので、何も盗まれていなかった。ホッとした。
旅から帰ってしばらくして、私は強い悔恨の念に晒された。あの「ナショナル・ギャラリー」に、私の大好きな謎の画家フェルメールの絵が、まさか2枚展示されていたとは!「ヴァ―ジナルの前に立つ女」と「ヴァ―ジナルの前に座る女」である。館内案内パンフにも美術館で買った<ガイドブック>にも、フェルメールには一言もふれていなかった。ロンドンには死ぬまでにもう一度行かなければ、気が済みそうにない。
イギリス……車で一人旅をしてみたい国である。そして夕方パブに行って、エールビールを飲んで……
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