TVドラマベスト10(その3)
今回は、いよいよ、第3位から第1位までを報告します。
第3位 「ハゲタカ」(2007)
企業そのものの売買を中心としたビジネスには、身も蓋もない荒涼としたものを感じるのですが、その荒涼としたものを、よくここまで面白くドラマ化したものだと思います。
世代的に感情移入できるのは、投資ファンドに老舗旅館を潰され車に飛び込む放漫経営者たる宇崎竜童や旧体制の巨大銀行のエリート行員たる柴田恭平までで、主役の新興のファンドマネージャー鷲津こと大森南朋や、宇崎竜童の息子で鷲津に対抗する投資家に転身した松田龍平などにはのめり込めないのでないかと思ったのですが、いずれも、日本人のメンタリティを保ちつつ、日本人のメンタリティとは全く異質のシステムに知的に果敢に立ち向かう姿がかっこよく、結局、最後までドラマに見入っていまいました。
日本のドラマには、政治経済システムの中で暗躍する組織人を魅力的に描く伝統的な流れがあり、山崎豊子/山本薩夫の映画「白い巨塔」(1966)「華麗なる一族」(1974)あたりがその原型となっていましたが、「ハゲタカ」はその伝統を現代的にリニューアルして正当に引き継いでおり、「ハゲタカ」を皮切りにして、「空飛ぶタイヤ」(2009)「下町ロケット」(2011)「半沢直樹」(2014)等の一連の池井戸潤原作群が現代日本人のメンタリティの面白さをさらに引き出すに至っているのではないかと思います。
第2位 「パパはニュースキャスター」(1987)
「パパはニュースキャスター」は、「ハゲタカ」が描いた寒々とした現代日本の前の、よき日本であった最後の時代を、これ以上なく洗練されたコメディとして記録したといってもよいかもしれません。
斜陽の映画界の最後の二枚目スターであった田村正和は、当時の子供と学校の状況をリアルに描こうとした「うちの子にかぎって… 」(1984)に先生役として出演して以降、古典的な二枚目が場違いな現代にいるだけで笑いがこみ上げるという、田村正和でなければなしえないTVドラマ型ロマンティックコメディを確立したと思います。
「パパはニュースキャスター」は、インターネット時代が始まる直前のTV全盛時代を背景に、そのコメディ色を極限まで引き出した空前絶後の面白さと、祭りはもうすぐ終わるという予感を湛えた何ともいえない哀愁に満ちたドラマとなっています(主題歌「Oneway Generation」(本田美奈子)が楽しくも哀しい)。
また、このドラマは、パパこと鏡竜太郎キャスターを支えるサブキャスター米崎みゆきを演じる浅野温子なくしては成立しなかったと思います。
田村正和は、映画出身の天下の二枚目俳優だけあって、TVドラマでは対抗できる共演女優がなかなかいなかったのですが、浅野温子だけが、田村に対等に突っ込みを入れており、愛らしくもしたたかな大人のコメディエンヌとして堂々と軽やかに演じていたと思います。
鏡竜太郎が、酒の飲みすぎで前後不覚に陥ったときにできたとされる三人の「愛」(めぐみ)を演じた子役3人も、今風を絵に描いたような面白さで、田村を喰わんばかりでした。
この3人の子役たちのうち2人は、現在も中年おばさん役を演じる脇役俳優として元気ですが、田村正和が70歳をすぎようとする今でも二枚目を張っているのとみると、田村正和の二枚目俳優としての凄さを改めて思い知ります。
第1位 「富豪刑事」(第1シリーズ2005、第2シリーズ2006)
(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AF%8C%E8%B1%AA%E5%88%91%E4%BA%8B)
若いころ悪行の限りを尽くして巨万の富を築いた神戸喜久右衛門(夏八木勲)を祖父にもつ、新人巡査である富豪刑事・神戸美和子(深田恭子)の焼畑署での活躍を描く、シュールで洗練されたミステリーコメディの傑作です。
筒井康隆が、1975年に発表した小説が原作ですから、上から目線で日本人の俗物ぶりを炙り出し、生活感に根差した感覚から全くかけ離れたある種のブラックな感覚が刺激されます。
犯人の方は、旧貴族、企業経営者、その道の日本のブルジョワ層の相応の俗物大金持ちなのですが、それを遥かに上回る、祖父をバックとする富豪刑事の圧倒的な財力による仕掛けになすすべもなく破滅の道をたどります。
第1シリーズの最終回、富豪刑事が危機に陥ったときに悪者たちの目を引き付けるために、ばらまいた札束が、世界中に舞っていく場面は秀逸でした。
この筒井康隆らしい基本的なドラマ構成にたっぷりと血を通わせているのが、それぞれに好演している怪優たちです。
主役の深田恭子は、デビュー7年目にして、今に至る「フカキョン」スタイルを確定的に形成した代表作をものにしたといえます。
金持ちを全く自覚していない天然ボケっぷりで、
「たった5億円ぽっちのために、何で」
「お金ではないんです、大事なのは愛なんです」
との決め台詞で、周囲の俗物が白けきるところが毎度のラストの見どころです。
フカキョン以外の女優では生臭くて、このシュールさは出せないと思います。
祖父の喜久右衛門を演じる名優、夏八木勲。
喜久右衛門は、若い頃、悪行の限りを尽くして巨万の富を得て、目に入れても痛くない美和子のために、その富を惜しげもなく費やすのですが、その都度思い出す過去の悪行を、美和子に自慢げに話だし、その常軌を逸した話しっぷりを、秘書(市毛良枝)に厳しく咎められます。
その一方で、正気に返った喜久右衛門は、どことなく品がよく、美和子の事件に関係した美女と密会する等の、若い頃はさぞやもてたであろう陰のある男っぷりであるという難しい役どころです。
この役は、映画で長年アクション俳優としてならし、年老いては性格俳優として活躍していた好漢、夏八木勲でなければできなかったと思います。
政界の黒幕である瀬島龍平(筒井康隆)が、若い頃から喜久右衛門をライバル視し、孫娘を助け何かと表舞台で活躍する喜久右衛門に激しい嫉妬心を燃やし、復讐する機会を伺うという伏線が毎回張られています。
瀬島龍平が喜久右衛門をライバル視するきかっけが何とも人を喰った話なのですが、若き二枚目喜久右衛門が俗物・瀬島龍平の心を引き裂く場面は、夏八木勲と筒井康隆の役者人生が滲み出るような面白い場面となっています。
富豪刑事の上司である鎌倉警部を演じる山下真司。はまり役です。
頭が固くて、捜査はもっぱら足で情報を集め勘と経験で行うことをモットーとしており、鎌倉警部の人生にはない富豪刑事の金にあかせた捜査に引きずり回され、警察のお偉方(西岡徳馬)からは捜査の失敗の全責任を負わされ、部下からは失脚することを期待されているという、中間管理職の悲哀が丸出しになる難しい役どころです。
「太陽にほえろ!」(1979)でデビューして以来、「清左衛門残日録」(1993)で正義感の強い女心の全くわからない藩内随一の使い手を演じる等、一貫して体育会ながら味わい深い男優になった山下真司にしてはじめて可能であったと思います。
鎌倉警部の指揮下に入る部下達(升毅、相島一之、鈴木一真、寺島進、載寧龍二、)も、1970年代、80年代から舞台を中心に活躍している一癖二癖俳優が固めており、フカキョンのホンワカ演技と心地よいハーモニーを奏でています。あの寺島進の影がやや薄いという密度の濃い脇役陣でありました。
また、焼畑署の外回りのアホボケ婦人警官コンビ(野波麻帆、中山恵)が富豪刑事に激しく嫉妬しながらも、当人たちがドラマのなかでは一番の美人であるところが面白い。
「富豪刑事」は、少し前から放映されていた稀代の怪作「トリック」(2000)と同じプロデューサー(桑田潔、蒔田光治)が制作し、同じ作曲家(辻陽)が音楽を担当しています。
そのため、「富豪刑事」には「トリック」風味が漂うことがありますが、「トリック」があくまで監督(堤幸彦)の「映画」であったのに対して、「富豪刑事」は純正な「TVドラマ」である点が極めて対照的です。
「富豪刑事」は遊びもたっぷりと入っており、フカキョンは毎度ブランドものに身を包み着せ替え人形状態なのですが、なんと、セーラー服も着てくれるお宝サービス場面があったり、富豪刑事が心ときめく同僚の若手二枚目の載寧龍二が女装したり、山下真司の「スクール☆ウォーズ」のパロディ事件が起きたりしています。
また、何といっても、記念すべき第1シリーズの第1回は、発明家(甲本雅裕)の関わる事件で、この発明家が特許庁に発明申請をする場面があり、風呂敷に発明品を包んで、特許庁の郵便局風の受付けで風呂敷の中身を見られないように用心しているという奇怪な場面があります。
我々、知財関係者がとても楽しめる場面です。
「富豪刑事」は、古今東西見渡しても、日本でしか制作されえないという意味でも、TVドラマの世界的な傑作といえるでしょう。
以上
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